中国で「日本の高校野球」に熱中・感動する人続出の理由
すっかり秋の気配が漂い涼しい日が増えてきたが、
今年日本の夏はとにかく暑かった。
日本の高校野球、平成最後の夏の甲子園大会はそれ以上に熱かった。
その熱気は日本だけではない。海を隔てた中国でも、
これまでになく熱い視線が日本の高校野球と甲子園に
注がれていたのをご存じだろうか。
中国では野球はポピュラーなスポーツではない。
ごくわずかの学校に野球チームがあるぐらいだ。
ほとんどの人は野球のルールさえ知らない。
ゆえに普通は関心がないのだ。
ところが、今年はまったく違っていた。
甲子園関連の記事が幅広い層にSNSで拡散され、話題沸騰した。
8月に筆者が中国へ出張で行った時にも、
さまざまな会合や食事会の雑談時に
「日本の甲子園はスゴイですね!見に行った?」、
「吉田輝星君の今後の進退はどうなるの?」
「青春はまさにこういうものだね」と言われたほどだ。
今年の中国は年齢や性別、職業を問わず、
日本の高校野球と甲子園に関心が高いことを体感した。
それはなぜか。
実はたくさんの写真を交えながら、
「平成最後の甲子園 少年たちの青春ドラマ」というようなテーマで、
日本の高校球児たちの活躍ぶりを紹介した記事が
中国で拡散されたのだ。
中でも抜群に注目を集めたのが、
やはり日本で多くの人を熱狂させていた、
金足農業高校の活躍である。
「雑草軍団」と呼ばれた金足農業は、
中国でも多くの人たちを感動させた。
紹介記事の主な内容は以下の通りだ。
チームには「怪物」と言われた吉田輝星投手がいること、
金足農業高校は農業や畜産などを学ぶ農業の専門学校であり、
「リンゴを盗んだ奴は停学、梨を盗んだ奴は退学、豚をいじめではいけない」
などの校則があること(リンゴよりも梨の方が価値があるのが不思議らしい)、
雪が積もる厳しい環境の中で長靴を履きながら
チームメートを背負って練習していたこと、
吉田投手の父親も金足農業の野球部OBであり、
父の夢である甲子園出場を息子が実現したこと、
ある選手が秋田県大会決勝の前日、ニワトリに
「明日、がんばってくるからな」と話しかけたこと、
全力で校歌を歌う時の「のけ反り」は当初は滑稽と見られたが
徐々に日本人の涙を誘い最後は感動的ですらあったこと、
強豪校である大阪桐蔭との決勝戦前には、
大阪桐蔭を戦車、金足農業をトラクターに例えた
「戦車vsトラクター」の画像がSNSで出回ったこと、
秋田から大阪までの航空券は完売し臨時便まで出たこと、
秋田県民がテレビの前に釘付けになり、
農作業などの経済活動が停滞したこと……。
そして、決勝戦では敗れはしたものの、
「決勝戦の後、秋田と甲子園の上空には同時に虹が現れ、
ドラマチックで不思議な光景となった」など、
さまざまなエピソードが非常に細かく紹介されていた
(これらの記述の中には、日本の読者から見ると
かなり真偽が疑わしい部分もあるかもしれないが…)。
中国でも多くの人がこのような記事を読んで、
SNSで幅広い層に拡散され、数えきれないコメントが寄せられた。
「野球はまったく知らないが、どうしてここまで感動したかわからない」
「何度読んでも、涙が止まらない…」
「日本がうらやましい!我々の子どもがかわいそうだ」
「血が沸いた!熱血青春とは何か、日本が教えてくれた。ありがとう」
「このような肉食男子を見るのが久しぶり、爽快だ」
「このように青春を謳歌(おうか)できるのが、誠にうらやましい!」
「儀式感があって、全国が一丸になって盛り上がりを味わいたい!」
「何度読んでも、涙が止まらない…」
「日本がうらやましい!我々の子どもがかわいそうだ」
「“高校球児の98%がここで敗者になる、そしてもっと強くなる”熱血極まりない!共感した!」
「日本の高校生は命を懸けてスポーツをやっている。わが国では宿題に命がけ」
「勝ち負けは関係ない、力を尽くしたから、これでいい!勇気をもらった!」「血が沸いた!熱血青春とは何か、日本が教えてくれた。ありがとう」
「このような肉食男子を見るのが久しぶり、爽快だ」
「このように青春を謳歌(おうか)できるのが、誠にうらやましい!」
「儀式感があって、全国が一丸になって盛り上がりを味わいたい!」
など、称賛の声があふれていた。
日本の高校野球が中国でここまで反響を呼んだのには、
いろいろな事情が背景にある。
最近のある統計では、18歳以下人口の中で、肥満は1億2000万人いる。
12歳から18歳の少年には1.9%が糖尿病を患っている。
また、つい先日に起こったことだが、新学期を迎えた
杭州の某小学校の運動会では、
8時の開会式から1時間半後の9時半には、
約20人の子どもが気を失って倒れ、病院に運ばれた。
学校や社会全体に「学業重視、体育軽視」の風潮が強い。
受験合格を勝ち取るために、多くの時間を宿題に費やし、
親も学校の教師も成績だけに目を凝らす。
数学や国語などの学習時間を優先し、体育の時間を削るのは当たり前。
夏休みと冬休みでは、塾通い以外にも、「スタートラインで負けたくない」
という親の思いで、いろいろな習い事で忙しい。
筆者の友人の中学生の息子は、月曜日から土曜日まで、
塾通い以外の習い事としてピアノ、水泳(水難事故防止のため)、
絵、英語、囲碁などに時間を費やす。
そして、一人っ子がほとんどであるため、
1人の子どもに対して周りに6人(両親とその祖父母)の大人がいて面倒をみる。
日ごろから「過保護」と言われても仕方がない状況だ。
風邪を引いたら、すぐ病院へ行き、
「1人跌倒6人扶(1人が転んだら、6人が体を起こしに行く)」という状況だ。
食事はテーブルに食べ物がいっぱい並べられていて、
まるで北京ダックのように食べさせられる。ゆえに肥満の子どもが多い。
しかも、近年はスマートフォンの普及により、
皆「低頭族(スマトフォンに没頭)」になっている。
スマホによるゲームやチャットなどに集中し、長時間座りっぱなし。
そして「宅男、佛系男子」などが流行語となっている。
つまり「自宅に籠り、欲がない」、日本の草食男子に似ている。
不健康で貧弱な男子が非常に増えているのだ。
中国ではIT化が進み、さまざまなアプリが誕生し便利になっている。
特にデリバリーが発達して、何日間も外出しなくてもまったく困ることなく、
指1本でどんなものでも手に入る。
特に食事のデリバリーは食べたいものが30分以内に届けられる。
指を動かすだけで、身体は動かないのだ。
現代の中国では、小学生は中学受験のため、
中学生は高校受験のため、高校生は大学受験のために
それぞれ次の段階に向かって、必死に準備しているという状況だ、
ゆえに「今」を生きることができないのだ。
社会現象ともいうべきこの現状を見て、大人が
「今の子どもは大変だね、かわいそうに…」
と言いながら、変えようとしない。
というよりも、皆そうだから変えられないのだ。
そして、近年中国の映画や、テレビに出てくる男子は、
皆同じく色白で細くて女っぽい顔をしている。
彼らが主役を務めることも多い。
例えば、戦争を描く映画でも、
原作の中の主人公は堂々たるたくましい男なのに、
弱々しい俳優が演じている。
芸能界がそうだから、世の中の男の子も追随してまねすることになる。
そして女の子もこれが美であると思い、
このような男子に夢中になって追いかけている。
最近は、このような現象を批判する声も上がってきた。
先般のワールドカップでは、
SNSで女々しい中国の男子の写真と
筋肉もりもりのサッカー選手の写真が並べられ比較された。
ネットでは「中国の男よ、あなたの男らしさはどこに消えたのだ?」
と叫ばれていた。
「少年強則国強、少年弱則国弱」、
清末民初の政治家梁啓超はこのような名言を残した。
つまり、「少年が強ければ国も強い、少年が弱ければ国も弱い」。
この言葉を最近の中国のメディアでよく目にする。
「男の気概、風格、野性を取り戻そう!」と、
ようやく社会全体がこの現象を意識しはじめ、
呼びかけ始めたのである。
中国では、全国地域連携の青少年のスポーツ競技があるが、
国が大きいということもあって、
そもそも日本のようにスポーツの試合をテレビやラジオで生中継し、
全国民がこれに注目し楽しむことがない。
いつか、わが国も日本のように、親も子も共にスポーツを楽しむ、
お祭りのように盛り上がる日が来るだろうかと、多くの人が思っている。
そうなるために、今年の日本の甲子園が起爆剤になるかもしれない。
(ダイヤモンドオンライン 記事から)