◇健康管理に目光らせ
 午後8時過ぎ。閉店したばかりのラーメン店「兄弟ラーメン」で、ひときわ大きな声が飛び交う。「おばさん、おかわり」。部員たちが次々に皿を差し出す。店主、福田常子(60)が笑顔で「野菜も食べて」「てんぷらもあるよ」と声をかける。鍋にいっぱいだったカレーはみるみるうちに無くなり底をついた。
 福田は南約500メートルの自宅に部員4人を下宿させており、いわば母親代わり。朝夜とも店内での食事だ。
 宇部、山陽小野田両市内の自宅から通う部員がほとんどだが、4人はいずれも県東部などの出身。早朝や放課後練習に集中できるよう1年前から福田方で間借りしている。
 「部員の下宿が見つからず困っている」。昨年1月、常連客の一人、コーチの藤井久夫(57)から相談を受けた。遠方の部員が長年利用していた下宿先が主人の病気で閉鎖せざるを得ないという。
 昼食の出前などでなじみの宇部商。かつて宇部鴻城高陸上部の生徒を預かったこともある。「それなら」と引き受けた。とはいえ、不安がなかったわけではない。建築業の夫、俊治(55)のほか、次男(21)も一緒に暮らしている。そこへ今時の若者が入り込み、寝泊まりする。
 しかし、それは杞憂(きゆう)だった。あいさつに訪れた4人は礼儀正しく、玄関では脱いだ靴をきちんとそろえる。ホッとするとともに野球部の強さの秘密を垣間見た気がした。
 以来、毎朝6時起き。早朝練習に空腹で行かせるわけにはいかないし栄養バランスも考えなければらない。栄養学の本を何冊も読破し、野球選手の息子を持つ客を見つけては食事メニューを聴いた。
 それだけではない。雨が降れば車で迎えに行くことも。野球に関心はなかったが、今ではグラウンドや試合会場に足しげく通い、声援を送る。「いつもは『おばさん、おばさん』としろしい(うるさい)が、グラウンドでは実にりりしい」と目を細める。
 次男が「我が子を送り迎えしたことなどないのに」とからかった。福田は言い返した。「(部員の)4人もかわいい息子じゃけ」。
 甲子園球場での“息子たち”の活躍が今から楽しみでならない。(敬称略)=つづく
2月1日朝刊