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  Part07:さかさまの建て方

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  ひとりの旅人がある国を訪ねました。

  その国では何もかもがさかさまでした。

  例えば、彼の国では新聞は右綴じで
  文字の書き出しは左から右へと流れ、
  上から下へと行を重ねていくのに、
  その国では左綴じで、上から下へ文字が流れ
  右から左へと行を重ねていきます。

  車は左側を通り、運転席も左側についています。

  玄関扉は押して入るのではなく引いて入りますので、
  玄関先でとまどいます。

  その国の人がなんでもさかさまに考えているというのは、
  その話し方からも想像できます。

  その国の人は、形容詞や目的語などを先にして、
  動詞を最後にくっつけて話すから
  何を話したいのかは最後まで聞かないとわかりません。

  そして、住宅建設にもそのさかさまぶりは発揮されています。

  のこぎりは押すときではなく
  引く時に切れるようになっていますが、
  それだけではありません。

  住宅の作り方は床から順に建てるのではなく、
  宙にかかる屋根から作り上げていくのです。


  この旅人のモデルは今から約130年前に
  静岡に赴任したE.W.クラークというアメリカ人教師です。

  彼は、次のような感想を持っています。

  「・・・日本人が物事をなす場合に、
  その物事についてのわたしたちの先入観と
  同じ方法で行うことは、全く日本人の性質に
  反するということである。

  日本の家屋では、屋根が最初に作られて、
  その他の部分は後回しである。

  日本人は一種の神聖な本能で、
  いつも最も高い所から始めて、
  下へ仕事を進める。

  穴を掘るとか、のこぎりを使うとか、
  かんなをかけるとか、材木を切るとか、孔をあけるとか、
  ねじ釘をしめるとかいうような日常の小さい仕事でも、
  西半球の人々のやり方とは正反対である。・・・」(1)と。

  クラーク教師の言い分は少し大げさではありますが、
  木造軸組工法住宅では上棟までは
  一気呵成に組み上げてしまうので、
  急に宙にかかる屋根ができあがったように見えます。

  ここまでの作業を建前と言います。

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  一気呵成に組み上げるために木材の端部には
  あらかじめ刻みを入れておきますので、
  建前は匠の技が試される作業でもあります。

  その後の作業ではまず屋根材を葺くため、
  屋根がテントがわりになって、
  雨水を建物内に入りにくくしながら
  工事を進めることができます。 

  これは、雨によって建物内部に湿気が入り
  抜けなくなるのを最小限にするためです。

  アメリカで開発されたツーバイフォー住宅の
  プラットフォーム工法では、
  床の次に壁、壁の次に2階の床、
  その次に2階の壁、そして、屋根、と
  屋根が最後です。

  これでは、その途中に少しでも雨が降ると
  建物の中が濡れてシミができてしまいます。

  見栄えが悪くなるだけでなく、
  壁の内部に湿気が残ると、
  カビの原因になったり、
  腐ったりすることも考えられます。

  日本には不向きな工法と言えるでしょう。

  日本の建て方は日本の気候に合わせて、
  何百年もの間に工夫されてきました。

  建て方がさかさまなのは、
  決して日本人がアマノジャクだからという
  理由ではなく意味があることなのです。

  さて、建前の済んだ木造軸組工法住宅では、
  まだ耐力壁もできていないうちに屋根ができているので、
  ゆらゆら揺れやすくなっていますから、
  仮筋かいという斜め材を適当に打ち付けて
  工事中の屋根を支えます。

  その後本格的にゆがみ直しをして
  仮筋かいをはずしながら
  屋根以外の部分を作りあげていきます。

  工事中の家を見てください。

  仮筋交いまで終わらせた職人さんは、
  とりあえずホッとした表情をしている事でしょう。

 ■参考文献
  1.外国人が見た日本第2巻(昭和36年)岡田章雄編、筑摩書房

  (きすみふぁみりー)