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  Part08:人の眼は木目を選ぶ
 
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  めまいを感じる空間があります。

  東京国際フォーラムのホールAや
  養老天命反天地(岐阜県にある公園)などがその一例です。

  前者は左右に配置された光壁パネルの模様が
  斜めになっているからで、
  後者は地面が盛り上がったり窪んだりしている上に
  オブジェが斜めに突き刺さっているからです。

  あの大震災の後にも船酔いの症状を
  起こす人がいたといいます。

  これらから、人の目は自然に垂直な物を
  探し出していることがわかります。

  では、どうして、垂直な物を探してしまうのでしょうか。

  佐藤方彦先生は、人間の視覚系統の発達にとって
  最も重要な時期は生後18ヶ月~24ヶ月であり、
  その時期に家屋や周囲の垂直や水平を見ているため、
  第一次視覚野にその図形を検出する細胞が
  特に発達している、と言っています。

  鳥の子が最初に見たものを母親だと思って
  ついて歩く刷り込み(インプリンティング)
  のようなもので、2歳までに見た物に
  好感を持つようになっているのだと思います。

  有名な九鬼周造の「いきの構造」で
  「最も粋な図案は縦縞である。」
  と言っているのもうなずけます。


  このように、ついつい目が欲する垂直線。

  では、「心地のいい垂直なものは?」というと、
  それは木目であると思います。

  山田正先生は、木目は「1/fゆらぎ」を持っている、
  と言っています。

  「1/fゆらぎ」を持つものは人に
  心地の良い印象を与えると言われており、
  エアコンの風量調節などに応用され、
  一時さかんに宣伝されていたのを
  覚えている人も多いのではないでしょうか。

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  農林水産省森林総合研究所の宮崎良文先生による
  「木目と快適性の実験」で
  「心地のいい垂直なものは木目である」
  という事を裏付けるような結果が出ています。

  その実験は白壁の部屋と、ヒノキ壁の部屋に
  入ったときの血圧の変化を調べたものです。

  好きなものを見たときには血圧が下がり、
  嫌いなものを見たときには血圧が上がる事で
  ストレスとなっているかどうかがわかります。

  白壁が好きだと答えたグループの場合は、
  血圧が下がり、嫌いだと答えたグループは
  血圧が上がります。

  ヒノキの壁が好きだと答えたグループの場合は、
  血圧が下がるのは当然のことながら、
  しかし、嫌いだと答えたグループも
  白壁が嫌いだと答えたグループほど
  血圧が上がらないことが解ったそうです。

  意識した好き嫌いの判断に対して
  無意識のレベルではそれほど嫌いではないと
  判断していることがわかります。

  遊びに行ったお宅に木の柱や梁などが見えていると、
  ついつい長居してしまうかもしれません。

  木で家を造ってきた我々の遺伝子に、
  木目を好んで探し出す力が備わっているのだと思います。

  ちなみに、関西では板目模様、
  関東では柾目模様が好まれる傾向があると聞きます。

  江戸時代、もしかするとそれ以前からの
  長い期間に培われた、お茶室等の銘木文化と、
  武家屋敷等の文化の蓄積が、
  地域性のある好みに現れているのかもしれませんね。

 ■参考文献
  •「日本人の鼻はなぜ低い?生理人類学の眼」佐藤方彦 日本経済新聞社 1990
  •「木質環境の科学」山田正 海青社 1987
  •「フォレストリー・フォーラム 自然の恵みを語る 森と古代文明/木と暮らす。
   人と自然、ともに生きる住まい」宮崎良文他 住友林業フォレストリー・フォーラム事務局 1998
  •「木と森の快適さを科学する」宮崎良文 全国林業改良普及協会 2002

  (きすみふぁみりー)