シカ・クマ・イノシシ・・・人と野生動物の共存・共生
野生動物との軋轢が見られるようになった
かつて、日本では人と野生動物はお互いに住み分けて共存していました。
しかし、ここ数十年の経済的な成長と社会状況の変化によって、
人と野生動物との共存・共生が徐々に難しくなってきたようで、
各地で両者の軋轢(あつれき)が見られることが多くなりました。
特に、シカ、クマやイノシシ、などの中・大型哺乳類との共存が難しいようで、
農林業に対する被害も深刻な問題になっています。
時には野生動物が人間を襲ったり、家屋に侵入したりというニュースも
耳にするようになりました。
愛らしいシカであるが、農林業の立場からは害獣とも言える存在になっている
共存が難しくなってきた理由の一つとして、農山村の過疎化・高齢化、
里山の荒廃が挙げられています。
かつては、野生動物が生息する「奥山」と人が生活する「人里」との中間に
雑木林等の「里山」があり、里山は人と野生動物を分離する
いわば「緩衝地帯」の役割を担っていたと言われています。
しかし、現在は「人の手が入っていない『里山』」が増え、
しばしば里山の荒廃が見受けられるようになりました。
野生動物は身を隠したり、生息の場として、
里山が好都合な場所となってきています。
その結果、野生動物の生息の場と人里との距離が近づきすぎて、
野生動物が人里へたやすく移動できる状況になっているようです。
「里山」を整備し、人が里山に入る機会が多くなると、
野生動物が人里へ降りてきにくくなると言われています。
森林と林業への影響
森林と林業にとって、特に目立つのはシカによる被害です。
私たちがこれまで経験したことがないほどにシカが増え、
生態系の均衡が崩れ、森林がシカを支えきれなくなっているのです。
シカの個体数の増加とともに、農林業への被害が急増しています。
シカの個体数増加の原因は、天敵のニホンオオカミの絶滅、
狩猟者の減少、気候変動により暖冬が多くなり、
冬期に生き延びるシカが増えたなどが考えられています。
シカによる森林・樹木への被害例としては、
樹皮や葉の摂食、苗木の摂食や踏みつけ、
角を木にこすりつけることによる樹皮の損傷・剥離などが挙げられます。
また、シイタケなどの特用林産物が食害を受けることもあります。
さらに農業でも、イネ、ムギ、ダイズ、トウモロコシ、
野菜や果実などが食害を受け、広く農林業に被害が及んでいます。
さらに深刻な問題として、シカは国立公園などの自然林を食害、
樹皮剥ぎによって枯死させたり、植生を退行させたり、
貴重な植物群落を絶滅させるなど、
森林生態系にまで大きな被害を与えるようになりました。
自然林への被害の原因の一つとして、
育成林(人工林)での間伐等の森林整備の遅れや
収穫期になった高齢木が伐採されて使われないため、
育成林の林床に光が届かず、
シカのエサとなる柔らかい下草や低木の葉がなくなったため
とも言われています。
その結果、人里近くや国立公園の天然林などに出没し、
食害や植生に被害を与えるようになったようです。
人が森林整備など山に入る機会が多くなれば、
野生動物が近づかないと言われています。
シカによる剥皮被害。数十年かけて育ててきた木もやがて枯れてしまう
(写真:林野庁)
(写真:林野庁)
物理的な対策としては、防鹿柵、電気柵、罠の設置などを行っています。
最近では、ウルフピーと呼ばれるオオカミの尿を小さな容器に入れて設置し、
シカをはじめ、オオカミを天敵としている野生動物が近づけないようにする
という取組みも試みられているとのことです。
また、観光地では、一般の人々に対して、野生動物を見かけたときには、
エサを与えないこと、ゴミを捨てないことなどの注意を促しています。
このように、さまざまな対策を施しているようですが、
根本的な解決には至っていません。
現在は、一部の地域でシカの個体数を調査の上、
狩猟規制の緩和を行いシカ個体数を調整する取組がなされています。
シカが過剰となった森林生態系の不均衡を改善し、自然林を保護し、
農林被害を回避するためには、さらに多くの地域を調査し、
頭数調整等の実効ある対策が必要と考えられています。
シカは北海道から九州にいたるまで日本各地で見られ、
日本を代表する動物のひとつです。
旧石器時代から狩猟の対象とされてきただけでなく、
万葉の時代(7世紀~8世紀頃)から和歌に謡われたり、
さまざまな絵にも描かれてきました。
また、シカに限らず、野生動物は、
私たちの生活をとりまく自然環境を豊かにし、
憩いと潤いを与えてくれます。
一方、手塩にかけ育てた農産物を収穫目前に、一晩にして、
野生動物に台無しにされた林家や農家にとっては、大変悲痛です。
私たちの社会も自然環境も、かってとはまったくの別世界になりました。
日本という限られた国土の中で、野生動物と私たち人間との
共生・共存のために折り合いをつけて、
新しい付き合い方を模索すべき時代になったようです。
私たち個人として何ができるのか、企業として、団体として、
国・地方自治体として、何をすべきなのか、
今は手探りで取り組んでいますが、
限定された地域や方法では解決が難しいようです。
近い将来に社会全体で解決すべき大きな課題の一つと言えるでしょう。
(木づかい友の会通信)