●生きろ。
 
  日本の映画興行成績歴代1位を誇る
  『千と千尋の神隠し』を始め『魔女の宅急便』、
  『天空の城ラピュタ』、『となりのトトロ』などの
  数多くの傑作を生み出してきた「スタジオジブリ」は、
  日本アニメ界の巨匠として世界にその名を轟かせています。

  堀越二郎と堀辰雄に敬意を表して。
  いざ 生きめもや。

  このセリフは、スタジオジブリの最新作「風立ちぬ」の
  宣伝ポスターに記載されている文章から抜き出したものです。
 
  ゼロ戦の設計者である堀越二郎と作家の堀辰雄をモデルに、
  1930年代の日本で飛行機作りに情熱を傾けた
  青年の姿を描いたこの作品。
 
  作中の美しい映像や音楽もさることながら、
  宮崎駿監督が初めてフィクションではなく
  実在した人物をモデルとして作り上げた映画としても有名です。
 
  さっと表面だけ見ると、
  「不安定な時代を生きた天才技師である男性と、
  その男性を愛した女性の恋愛物語」です。
 
  しかし、ノンフィクションの要素を織り交ぜた今作は、
  夢を実現するために懸命に努力したキャラクターを通じて、
  堀越二郎と堀辰雄だけでなく、
  宮崎監督自身の人生を投影した作品にもなっています。

  宮崎監督が生まれたのは1941年の戦時中でした。
 
  日本中が生活に苦しむ中、
  軍需産業関係の仕事に就く父親のおかげで
  宮崎家は苦しいながらも、
  一般人に比べて比較的恵まれた環境だったそうです。
 
  そんな宮崎監督が4歳の時、
  町が米軍に空襲され人々は逃げ惑いました。
 
  宮崎一家はトラックで避難していたところ、
  助けを求める近所の叔父さんとその娘を
  振り切って避難しました。
 
  4歳の宮崎少年にとっては衝撃的な記憶、
  そして、軍需で生活を養っていた事実は
  罪悪感として宮崎少年を苦しめる事になります。
 
  また終戦後も、病気がちな母親は寝込むことが多く、
  幼いながらも宮崎少年は母親を失う恐怖を
  日々感じさせられます。
 
  この戦争時の体験と母親への想いこそが
  今作の大きな原点となっているのです。

  東日本大震災以降、多くの国内ドラマや邦画が、
  震災を彷彿させるシーンを自粛してきました。
 
  しかし、宮崎監督はあえて今作のような形にしたと
  コメントを残しています。
 
  「あくまでもリアルな設定のなかで、
  夢で想像力を自在に羽ばたかせ、
  人間の軌跡を過不足なく紡ぎたい。」

  「生きろ。」や、「いざ 生きめもや。」というキャッチコピー。
 
  宮崎監督がこれらのキャッチコピーを採用した背景には、
  戦時ではないにも関わらず簡単に人が死んでしまう
  混迷の現代において、生きることの尊さや美しさを
  直接的に説いているように感じられます。
 
  (あるる)