パリ同時多発テロが起きるほどにIS膨張を許した戦犯は誰か?
11月13日、世界は「9.11」以来の衝撃に襲われた。
パリで「同時多発テロ」が起こり、129人が犠牲になったからだ。
イスラム国(IS)による犯行と見られるこの事件によって、
世界はどう変わっていくのだろうか?
突如現れて広大な地域を占領したIS
米国は過去に彼らを支援していた
今回のテロについて、フランスのオランド大統領は、
即座にISの犯行と断定。そして、IS自身、「犯行声明」を出している。
http://dol.ismcdn.jp/mwimgs/c/b/300/img_cba7014e87315e919320d339dee483a91924323.jpg反アサド派国家たちが支援した結果、ISは広大な地域を占領する力を手にした。パリ同時多発テロの背景には、関係諸国による「代理戦争」がある Photo:AP/AFLO
2014年に「どこからともなく」現れ、いきなりイラクとシリアにまたがる
広大な地域を占領したIS。
日本人には、「唐突に」登場したように見える。
しかし、ある集団が強い勢力を持つには、「金」と「武器」が必要だ。
彼らは、どこでそれらを得たのだろうか?まず、ここから話をはじめよう。
以下は、AFP-時事2013年9月21日付からの引用。
「シリアの反体制派同士が、ケンカし、戦闘になったが和解した」
という内容である(太線筆者、以下同じ)。
<シリア北部の町占拠、反体制派とアルカイダ系勢力 対立の背景
トルコとの国境沿いにあるシリア北部アレッポ(Aleppo)県の町、
トルコとの国境沿いにあるシリア北部アレッポ(Aleppo)県の町、
アザズ(Azaz)で18日に戦闘になったシリア反体制派「自由シリア軍
(Free Syrian Army、FSA)」と国際テロ組織アルカイダ(Al-Qaeda)系武装勢力
「イラク・レバントのイスラム国(ISlamic?State of Iraq and the Levant、ISIS)」
が停戦に合意したと、イギリスを拠点とするNGO「シリア人権監視団
(Syrian Observatoryfor Human Rights)」が20日、明らかにした。>
([AFP=時事])
短いが、ISに関する「2つの重要な事実」
(知らない人にとっては衝撃的な)を含んでいる。
まず、ISは、13年9月時点で「アルカイダ系」であった。
(その後、アルカイダから独立)。
2つ目は、この時点で、ISはシリアのアサド政権と戦う
「反体制派」(=反アサド派)に属していた。
これがなぜ「衝撃的」なのか?「アルカイダ」については、説明する必要もないだろう。
米国で01年9月11日「同時多発テロ」を起こしたとされるテロ組織だ。
「米国最大の敵」とされた。ISは「アルカイダ系」なので、「米国の敵」なのはわかる。
しかし…。11年にシリアで内戦が起こった時、米国はアサド現政権ではなく、
「反アサド派」を支援した。その時のことを思い出していただきたい。
米国は、「悪の独裁者アサド」「民主主義を求める善の反アサド派」という構図を、
全世界で宣伝した。
ところが、その「善の反アサド派」の中に、「アルカイダ系」の「IS」も入っていたのだ。
つまり米国政府は、「最大の敵であるはずのアルカイダ系ISを含む勢力を、
『善』と偽って支援していた」ことになる。
ISを含む「反アサド派」に
6000億円もの支援をしたのは誰か?
もう少し詳しく、ISのルーツを見てみよう。
ベストセラー「イスラーム国の衝撃」(池内恵著)にISの組織と
名称の変遷が記されている(65~68p)。
1999~2004年10月:「タウヒードとジハード団」
2004年10月~2006年1月:「イラクのアルカイダ」
(この時点では、はっきり「アルカイダ」を名乗っている)
2006年1月~10月:「イラク・ムジャーヒディーン諮問評議会」
2006年4月~2013年4月、:「イラク・イスラム国」
(ここで、「イスラム国」という名に変わった)
2013年4月~2014年6月、:「イラクとシャームのイスラム国」
2014年6月~、:「イスラム国」
2004年10月~2006年1月:「イラクのアルカイダ」
(この時点では、はっきり「アルカイダ」を名乗っている)
2006年1月~10月:「イラク・ムジャーヒディーン諮問評議会」
2006年4月~2013年4月、:「イラク・イスラム国」
(ここで、「イスラム国」という名に変わった)
2013年4月~2014年6月、:「イラクとシャームのイスラム国」
2014年6月~、:「イスラム国」
次に、ISが急速に勢力を拡大できた理由を見てみよう。
既述のように11年、シリアで内戦がはじまった。
ロシアとイランは、アサド現政権を支持、支援した。
一方、欧米は「反アサド派」を支援した。
さらに、トルコ、サウジアラビア、ヨルダン、エジプト、アラブ首長国連邦、
カタールも「反アサド派」を支持、支援した。
これらは「スンニ派」の国々である。
アサドは「シーア派」の一派である「アラフィー派」。
彼らは、アサドを政権から追放して「スンニ派政権」 をつくりたいのだ。
ところで、一言で「反アサド派」といっても、さまざまな勢力がある。
そこで12年11月、「反アサド諸勢力」を統括する組織として、
「シリア国民連合」がつくられた。
著名なアラブ人ジャーナリスト・アトワーン氏の著書「イスラーム国」には
「どの国が、反アサドを支援したのか」に関して、こんな記述がある。
<サウディアラビアとカタールが革命勢力に資金、武器支援を行った。
『ニューヨーク・タイムス』は、2012年1月、カタールが武器を貨物機に載せて
トルコに運び、革命勢力に供与していたと報じた。
サウディアラビアも軍用機でミサイルや迫撃砲、機関銃、自動小銃を
ヨルダン、トルコに運び、シリア国内に送り込んでいた。
非公式の情報に基づけば、サウディアラビアは50億USドル(約6150億円)を、
非公式の情報に基づけば、サウディアラビアは50億USドル(約6150億円)を、
武器支援などのシリア反体制派支援に費やしたという。>(203~204p)。
アトワーン氏は「非公式の情報」と断っているが、6000億円以上の金、武器が
「反アサド派」に提供され、その一部が(反アサド派にいた)ISに流れたとすれば、
彼らが突然「勃興した理由」もわかる。
ここまでで分かるように「シリア内戦」は欧米vsロシア、
そして、スンニ派諸国vsシーア派の「代理戦争」と化した。
そして、欧米や、サウジアラビアなどスンニ派諸国からの支援こそが、
ISを短期間で一大勢力に成長させたのだ。
ちなみにオバマは13年8月、「アサド軍が化学兵器を使った」ことを理由に、
「シリアを攻撃する」と宣言。
しかし翌月には、「やはり攻撃はやめた」と戦争を「ドタキャン」して世界を驚かせた。
この頃からISは「反アサド派」や「アルカイダ」の枠を超え、
独自の動きをするようになっていく(アルカイダは14年2月、ISに「絶縁宣言」をした)。
やる気のない欧米の空爆を尻目に勢力を拡大
プーチンの本気の攻撃でピンチに独自勢力になったISは、
次々に支配地域を拡大し、さらなる金と武器を手にしていく。
14年6月10日には、イラク第2の都市モスルを陥落させた。
ここには大油田があり、ISは重要な「資金源」を得ることに成功する。
同年6月29日、ISのリーダー、アブー・バクル・アル=バグダーディーは
「カリフ宣言」を行った。
つまり彼は「全イスラム教徒の最高指導者である」と宣言したのだ。
ISの現在の資金や武器は、どうなっているのだろうか?
前述の本「イスラーム国」によると、資金源は以下の通りである。
・ イラク中央銀行から、5億ドルを強奪した。
・石油販売で、1日200万ドルの収入を得ている。
・支配地域の住民約1000万人から税金を徴収している。
・石油販売で、1日200万ドルの収入を得ている。
・支配地域の住民約1000万人から税金を徴収している。
武器については、
・イラクとシリア両国政府軍拠点を制圧し、米国製、ロシア製の武器を大量に奪った。
・2700を超える、戦車、装甲車、軍用車両を所有している。
・2700を超える、戦車、装甲車、軍用車両を所有している。
さて、米国は14年8月、「ISへの空爆を開始する」と発表した。
同年9月には、今回テロが起こったフランスが空爆を開始。
その後、「有志連合」の数は増えていった。
しかし、米国を中心とする空爆は、あまり成果がなく、
ISはその後も支配領域を拡大していった。
米国を中心とする空爆に「やる気」が感じられないことについてロシアは、
「ISを使ってアサド政権を倒したいからだ」と見ている。
15年9月30日、状況を大きく変える出来事が起こる。
ロシアが、シリア領内のIS空爆を開始したのだ。
ロシアの動機は、親ロ・アサド政権を守ること。
そのため空爆も「真剣」である。
1ヵ月半の空爆の結果、シリアのISは大打撃を受け、アサド政権は息を吹き返した。
アサド軍は現在、着実に失地を回復している。
追いつめられたISのメンバーが、難民に紛れ込み、
欧州に逃亡を図っている可能性は高い。
こんな状況下で11月13日、「パリ同時多発テロ」が起こったのだ。
「パリ同時多発テロ」で
世界情勢はどう変わるか?
次に、「パリ同時多発テロ」で「世界はどう変わるのか?」を考えてみよう。
<フランス>
まず、テロが起こったフランスは、ISに復讐しなければならない。
<フランス>
まず、テロが起こったフランスは、ISに復讐しなければならない。
ここで空爆を止めれば、「テロに屈した」ことになるからだ。
実際、テロ翌々日の11月15日、フランス軍は、
ISが「首都」と称するシリア北部の都市ラッカを空爆した。
これは、今までで最大規模の攻撃だった。
また、フランスは、原子力空母「シャルル・ド・ゴール」をペルシャ湾に派遣し、
4ヵ月間駐留させることを決めている。
オランド大統領は、今回のテロを「戦争行為」と断じ、最後まで戦い抜く決意を示した。
<欧州全体>
欧州全体を見ると、今後難民に対する姿勢が硬化するだろう。
欧州全体を見ると、今後難民に対する姿勢が硬化するだろう。
難民の中にISメンバーが多数含まれている可能性は高い。
とすれば、欧州は、「便衣兵」(敵を欺くために私服を来ている兵士)を
大量に受け入れていることになる。
規制が強まるのは、やむをえない措置といえるだろう。
<ロシア>
不謹慎な言い方だが、事実として、「楽になる」のがロシアである。
不謹慎な言い方だが、事実として、「楽になる」のがロシアである。
1年8ヵ月前、「クリミア併合」を決断したプーチンは、
「ヒトラーの再来」「世界の孤児」と呼ばれていた。
しかし、現在、「クリミア」「ウクライナ」のことを思い出す人は、ほとんどいない。
それどころか、プーチンは、欧米にとって「対IS戦争の同志」になりつつある。
ロシアが空爆をはじめた当初、欧米は、「『IS』ではなく、
『反アサド派』を攻撃している」と批判した。
ところが1ヵ月半の空爆で、実際にISは著しく弱体化している。
オバマとプーチンは11月16日、G20が開かれていたトルコ・アンタルヤで会談。
そこで、オバマは、ロシアの空爆に理解を示した。
<<米露首脳会談>「シリア和平必要」…露IS空爆に米が理解
米国のオバマ大統領とロシアのプーチン大統領が15日、
米国のオバマ大統領とロシアのプーチン大統領が15日、
主要20カ国・地域(G20)首脳会議が開催中のトルコ・アンタルヤで会談し、
シリア内戦の終結に向け、国連の仲介による
アサド政権と反体制派の交渉や停戦が必要だとの認識で一致した。?
オバマ氏はロシア軍が9月末にシリアで始めた
過激派組織「イスラム国」(IS)への空爆にも一定の理解を示した。>
(毎日新聞11月16日(月)12時28分配信)
さらに、オランド大統領は11月17日、米国だけでなく、
「ロシアと協力して」「イスラム国」と戦う意志を明確にしている。
<仏米ロ、シリア北部のIS空爆 軍事的連携を強化へ
フランス、米国の空軍は17日、過激派組織「イスラム国」(IS)が
フランス、米国の空軍は17日、過激派組織「イスラム国」(IS)が
首都と称するシリア北部ラッカを空爆した。
パリの同時多発テロ後、仏空軍による空爆は2度目。
これとは別に、ロシア空軍もラッカを空爆した。
仏ロ関係はウクライナ紛争で冷え込んだが、
パリの同時多発テロ後、仏空軍による空爆は2度目。
これとは別に、ロシア空軍もラッカを空爆した。
仏ロ関係はウクライナ紛争で冷え込んだが、
オランド仏大統領は16日の演説で、対ISで従来の米国に加えて
ロシアとの軍事的連携も強化すると述べた。>
(朝日新聞デジタル11月18日(水)2時0分配信)
自称“国家”のISは消滅するが
テロは今後も続く
<米国>
米国は、今までの「ダラダラ空爆」を改めざるを得なくなるだろう。
米国は、今までの「ダラダラ空爆」を改めざるを得なくなるだろう。
このままロシア軍がISを征伐してしまえば、超大国の威信は失墜する。
これから米国は、「有志連合軍」を率い、真剣にISと戦うことになる。
ちなみに、「反IS」で欧米ロが一体化することは、
米国に「もっと大きな利益」をもたらすことになる。
現在、米国最大の問題は、「中国の影響力が米国に迫っていること」である。
実際、57もの国々が、中国主導「AIIB」への参加を決めた。
その中には、英国、ドイツ、フランス、イタリア、イスラエル、オーストラリア、韓国など、
「親米国家群」も含まれる(彼らは、米国の制止を無視して参加を決めた)。
特に、伝統的に「親米」だった欧州が、
「米中の間で揺れていること」は、非常に問題だ。
米国は、ISとの戦いを主導することで、欧州との関係「再構築」をはかるだろう。
そして、「中国と対抗するためにロシアと和解する」のは、
筆者が4月28日の記事で予想したとおりである(記事はこちら)。
つまり、「パリ同時多発テロ」がなくても、両国は和解に向かっただろう。
しかし、テロはそのプロセスを速めた。
<IS>
では、「パリ同時多発テロ」を起こしたとされるISはどうなるのだろうか?
欧米ロが一体となって、全力をあげて攻撃をしかけるのだから、
どう考えても勝ち目はない。
結局彼らは、支配地域を失い、
欧州、ロシア、旧ソ連諸国などに散らばっていくだろう。
支配地域を持たない古巣のアルカイダ同様、
世界のさまざまな地域でテロ行為を続ける。
ISという、自称“国家”は消滅するが、
そのメンバーは、これからも世界各地でテロを行い、民衆を恐怖させるだろう。
(ダイアモンドオンライン)