●たかが一枚、されど一枚
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  8月中旬、中国の寧郷市で中国全土を震撼させる一枚の紙が貼りだされ、
  そこにはこのような言葉が記されていました。

  「債券発行や借り入れのために差し出していた担保はすべて無効にする」
 
  中国では、地方政府が「融資平台」と呼ぶ投融資会社を無数につくり、
  資金調達やインフラ投資を代行させています。

  なぜなら、地方政府は最近まで債券発行を禁じられていたからです。

  ですので、その規制の回避策として融資平台を活用してきました。

  その支援方法は、まず信用補完のために
  地方政府の所有する土地を譲り渡します。

  次に、融資平台はそれらを担保にして金融機関から借り入れをします。

  そして、その借り入れた資金をインフラ投資などに回し、
  経済成長を助長してきました。

  ただ、その多くなりすぎた借り入れとは裏腹に、
  投資先からの収益が見込めず、返済が滞っています。

  実際、寧郷市が傘下に持つ融資平台の1つ、
  「寧郷経済技術開発区建設投資」という企業は、
  総資産が17年3月末で215億元(約3600億円)、負債は103億元です。

  総資産はここ4年余りで2.7倍になっていますが、
  寧郷市の財政収入は65億元です。

  なんと融資平台の1社の負債が、市全体の財政収入の
  約2倍になるまでに膨れ上がっているのです。
 
  そこで、湖南省寧郷市が今回の貼り紙で土地を担保から外すことにより、
  たとえ融資平台が債務不履行に陥った場合でも、
  金融機関が担保を回収できなくしようとしたのです。

  事実上の徳政令です。

  ただ、結局この発表が報道で伝わると批判が相次ぎ、
  ほどなく市が「国の政策に対する理解、認識を誤っていた」として
  決定を覆しました。

  中国の経済誌「財新」によりますと、
  地方政府の潜在的な債務は35兆元に達すると試算されました。

  これは公表数字2倍超になる数字です。

  ですので、このような事例を認めると、他の地方政府にも波及し、
  金融機関の焦げ付きが相次ぐ事を国が恐れたものと考えられます。
 
  そういった背景が、先月の格付け会社
  S&Pグローバル・レーティングスの中国の長期ソブリン格付けを
  「AAマイナス」から「Aプラス」に
  一段階引き下げる要因の1つになっています。

  信用拡大が長期間続き、経済・金融リスクが高止まりするとの見通しで、
  成長率から成長の質に焦点を移す必要があると指摘しています。

  その上で、成長率目標を6-6.5%に引き下げるか、
  もしくは目標を設定しないかどちらかにする事を推奨しています。

  今回の貼り紙は、中国が潜在的に抱えているリスクに、
  警鐘が鳴らされたと考えたほうがいいかもしれません。

  (アルフィックス日報)