住宅用太陽光発電の誤算、「10年で投資回収」は大ウソだった③
「丸々もうけを生んでくれる。皆さん、導入の検討価値ありですよ」。
11年春、日照時間が全国10位(16年政府統計)の静岡県で、
こんなうたい文句が並ぶ文書が出回った。
成功例として文書の中に登場するAさんは、
地元の知人に紹介されて10年4月に太陽光パネルを自宅の屋根に設置した。
思い切って補助金対象の上限ギリギリの9.92キロワットの発電容量にした。
オール電化に自宅を改修し、掛かった費用は総額約600万円!
Aさんは、「地球に優しいし、光熱費の節約になる。
10年で元は取れるし、その後はもうかると言われた。
これならいけると判断した」と振り返る。
余剰電力の買い取り期限が迫っていることをすっかり忘れていたAさん。
それでも、「故障もしていないし発電量も落ちていない。
投資は回収できているのでは」と、心配している様子は見られない。
実際にはどうだったのか
Aさんから提供してもらった太陽光発電を設置した後の電気料金、
売電収入などのデータを基に、FIT期間中の10年の費用対効果を、
住宅ローンの返済に詳しいファイナンシャルプランナーの
横山晴美氏に試算してもらった。
試算の結果は、Aさんの期待からは程遠く、
10年で115万円の赤字となった(上図・上参照)。
実は、住宅用太陽光発電を導入した多くの人が、
FITで投資を回収できると思い込んでいる。
FIT期間中に回収できるのは、産業用(買い取り期間20年)だけだ。
もとより政府の調達価格等算定委員会は、
住宅用太陽光発電の買い取り価格について
FIT終了後の自家消費や売電収入も勘案し、
20年間での採算性を前提に決めていた。
投資の回収期間は10年ではなく、20年なのだ。
実際に、Aさんの場合はFIT後の買い取り価格が
11円/キロワット時だと想定すると、
FIT終了から8年後にようやく黒字化する。
しかし、である。今は電力自由化の真っただ中。
大手電力会社や新電力がFIT後に11円/キロワット時ほどの
高値で買い取ってくれる可能性は低い。
仮に価格を6円/キロワット時と想定した場合、
黒字達成化は21年後まで延びてしまう。
投資回収を早めるこつは、出費となる電気料金を抑えること。
節電するしかない。
せっかく太陽光発電を導入することで光熱費を抑えているのに、
それでは無意味だ。
ちなみに、FITの買い取り価格が下落してから
住宅用太陽光発電を設置した場合の費用対効果はどうなるか。
今年、新居を構える際に太陽光発電を導入した
東京都のBさんにもデータの提供をお願いした。
発電実績が1年に満たないため、
新築購入時に施工業者がBさんに示した
シミュレーションを基に、横山氏が試算した。
結果は散々で、10年後は202万円の赤字となった(上図・下参照)。
さらに絶望的なのはFIT終了後だ。
買い取り価格が11円/キロワット時の場合は黒字化が41年後、
6円/キロワット時ならば83年後という途方もない結果に。
Bさんの場合、もはや投資回収ではなく、
住宅ローン返済の一部と考えた方がよさそうだ。
繰り返しになるが、政府は、太陽光発電などの
再エネを主力電源化する方針を変えてはいない。
政府は、12年にFITの制度設計をした段階で、
住宅用太陽光発電の投資回収が長期化することを把握していた。
電力自由化の余波で、買い取り価格の下落が
太陽光導入の壁になってゆく経過も見てきたはずだ。