●ノーベル賞・本庶佑氏と小野薬品「がん薬物治療革命」までの苦闘15年②
(*ノーベル賞受賞数年前のインタビューです。)
【PD‐1発見者】
本庶 佑・京都大学特別教授インタビュー
画期的な免疫薬の成功はがんに対する無知が幸い
──PD‐1分子の発見と機能解明は
ノーベル賞級ともいわれています。
画期的ながん免疫治療薬を生み出せた鍵は何でしょうか。
私は免疫の専門家であり、がんの専門家ではありません。
免疫の専門とがんの専門の間に「がん免疫」がある。
がんの専門家は、がん免疫の世界の人たちが、
効く効くと何十年も言い続けて研究費を得てきたのに、
科学的に説得力のあるデータを出せてこなかったことに
不信感を抱き、免疫に手を出さなかった。
私は免疫の専門家として研究を続け、
マウスでこれだけ効けば原理的に
人にも効くはずだと考えました。
一方で、がん免疫の研究者たちは、
免疫のアクセルを踏むことを一生懸命やってきました。
私たちはこの世界にも染まっていなかったから、
免疫にかかったブレーキを外すという
新しいアプローチを取れた。
パーキングブレーキをかけたままで
アクセルを踏んでも駄目だったんです。
あまり物事を知り過ぎるとジャンプができない、
ということなんでしょうね。
時間も金もない
アカデミアは今かなりの瀬戸際
──アカデミアのシーズが産業として実を結んだ好例です。
日本の基礎研究はこれからも期待できますか。
かなりの瀬戸際にあります。
私たちの世代と、次の世代までは
何とかやってこられましたが、
今の40代以下は大変つらい状態。
研究を続ける時間と金がもらえなくなっています。
PD‐1は国から時間も金ももらえた時代の産物です。
ライフサイエンスの分野は不発も多いが、当たればでかい。
ギャンブルのようなものなので、
最初からどの種が大木になるかなんて分からない。
だから種はたくさんまいておかなければなりません。
国は基礎研究に種はまいてくれます。
でも5年単位のプロジェクトが多くなり、
肥やしが不十分になった。
10年くらいもらえれば、苗くらいにはなるかもしれないのに、
その時間はもらいにくい。
──成果が出せる環境にないと?
国はアベノミクスで医療イノベーションをうたい、
アカデミアのシーズをなるべく早く企業につないで、
日本発で新しい薬や医療機器を開発して
GDP(国内総生産)を上げようとしています。
そのことには反対しませんが、
アカデミアがシーズを生まない限り、
この戦略は成立しません。
そのアカデミアの研究に対して、
文部科学省的ではなく
経済産業省的になっているのが残念。
近視眼的過ぎます。
成果は出るまでに時間がかかるもの。
PD‐1だって花開くまでに20年以上かかりました。
日本の企業もスリム化して絞るばかりで、
企業内の研究の力がものすごく落ちている印象を受けます。
今後、アカデミアに頼らざるを得ないでしょう。
ただ、アカデミアから出たシーズで利益を得たときは、
その一部をアカデミアにリターンしてほしい。
ウィン・ウィンの関係を築けるサイクルができれば、
アカデミアから次の新しいシーズも生まれてきます。
そのモデルとなるように、
PD‐1で得た利益で基金をつくりたい。
若い研究者が研究に没頭できるように、
雇用と研究費の提供という
金銭的なサポートができないかと考えています。
(週刊ダイヤモンド編集部)
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