日本人の秋祭り好きにはまったハロウィン バレンタイン越え市場の次はどうなる

「カワサキ・ハロウィン」は1977年スタート。
このころからハロウィンは本格的に一般層への認知度が高まりだした
Photo:カワサキ ハロウィン プロジェクト
日本でハロウィンと言えば、時期にある程度の幅があるが、
今日10月31日がハロウィンの当日だ。
今や推定の市場規模は1100億円と、
バレンタインデイを上回る勢いのハロウィンは
どうやって日本に定着したのか。
そして今後どうなるのかを考えてみよう。
古代ケルト人の宗教行事が
いかにして日本で広まった?
世界的に見ると、大衆行事としてハロウィンを祝う習慣があるのは、
アメリカやイギリス、アイルランド、カナダなど数ヵ国が主だ。
そもそもは古代ケルト人の収穫祭が起源とされ、
悪霊を祓う意味合いも持つ宗教的行事だった。
そのハロウィンから宗教色がほとんど薄れ、
人種や民族を問わず楽しめるイベントとして
広く受容されるようになったのは、
20世紀に入ってからとされている。
現在、特にアメリカにおけるハロウィンは商業化が著しく、
クリスマスやイースターに次ぐ大規模なイベント商戦として
市場が活性化している。
なかでも大きく影響を受ける商材は、
子どもにあげるキャンディをはじめとした「菓子類」、
お化けや魔女の仮装コスチュームなどの「衣装」、
家や店舗の飾り付けに用いられるオーナメントなどの「装飾」、
そして友人に送る「グリーティングカード」の4つが中心で、
いずれも小売業界が主役となって市場を盛り上げている。
2014年に発表された全米小売業協会の調査によれば、
ハロウィンに関わる推定消費額は全米で
74億ドル(約8000億円)に上る。
全体的な推移では、2005年に32.9億ドルだったものが、
2012年には80億ドルに達しており、
市場規模は大幅な拡大傾向にあるようだ。
元来10月から11月にかけての秋シーズンは
消費が落ち込む時期であり、
10月末に催されるハロウィンは、停滞しがちな消費を促進する
格好のビジネスチャンスとして好都合。
そこで日本でも多くの業界が盛り上げにかかっているが、
アメリカのハロウィン商戦のスケールに比べると、
まだまだ小規模なものに留まっている。
「ここ数年で急速にイベントとして定着してきた感があるハロウィンですが、
実際に何らかの形で参加している人の割合はまだ決して多くない。
最近の調査で“ハロウィンにちなんだ行動をしたことがある人”は
全体の20%弱だったというデータがありますが、
この20%は積極的にハロウィンを楽しんでいる
アーリーアダプター層だと言えます。
今後ハロウィン市場がさらに拡大していくためには、
残り80%にいかにリーチするかが課題でしょう」
こう語るのは、日米におけるハロウィンの経済効果を比較している
三菱UFJリサーチ&コンサルティングの主任研究員・妹尾康志氏だ。
同氏によれば、日本におけるハロウィンは約20年前から広まり始め、
今まさにその普及期にあるという。
日本にハロウィンが伝わった時期は正確には不明だが、
まず1970年代からハロウィン関連のイベントが在留外国人の
コミュニティを中心に各地で催され始め、
1980年代前半には原宿のキディランドが販促イベントとして
日本初の仮装パレードを実施している。
その後、本格的に一般層への認知度が高まり出したのは、
東京ディズニーランドが
「ディズニー・ハロウィーン」を初めて開催した1997年
も同年に開始)が契機だ。
この時期を境として一気に認知度が向上し、
10年後にはほぼ100%に近づいている。
そして2000年代後半から現在にかけての約10年で、
実際にアクションを起こして参加する人々が急速に増えている。
「ハロウィン・ネイティブ」の
増加で完全定着なるか
「日本で一般的にイメージされるハロウィンは、
アメリカの大衆文化が元になっていることは間違いありません。
ただし、家族や友人、近所付き合いの中で
アットホームに楽しまれているアメリカと異なり、
テーマパークや自治体で催されるパレードなどのイベントから広まった
日本のハロウィンは、『大勢で集まって楽しむお祭り』
という形で認知されている傾向が強いんです。
秋祭り(収穫祭)という風習は我が国にも昔からあり、
日本人の生活習慣に合っていたとも言えますが、
積極的にイベントに出かけるタイプの人以外は、
ハロウィンに参加する機会が少ないというのが現状です」(妹尾氏)
日本とアメリカでは、
人々がハロウィンを楽しむスタイルに明確な違いがあり、
それが消費にも影響しているという。
子どもが「トリック・オア・トリート」と唱えながら
地域の家々を訪問するという風習は有名だが、
日本でそれを実際に行っているという地域の話はあまり聞かない。
つまり家族やご近所同士のコミュニケーションという要素が抜け落ち、
代わりに大規模なパレードに参加したり、
友人同士で仮装パーティに興じる若者たちが、
ハロウィン参加者の中心を担っているわけだ。
結果、「菓子類」や「グリーティングカード」の需要はさほど増えず、イ
ベント用の「衣装」や「オーナメント」の売上は伸びるという傾向が生まれている。
日本の仮装は「コスプレ文化」をうまく消化
Photo:カワサキ ハロウィン プロジェクト
Photo:カワサキ ハロウィン プロジェクト
また、同じ仮装でもアメリカではホラーテイストの怖い衣装が好まれるが、
日本ではより受け入れやすい形にマイルド化されている。
特に女性が好む魔女などの衣装は
「萌え」の要素がふんだんに取り入れられるなど、
元々若者のカルチャーのなかにあったコスプレを
上手く消化している点も、日本のハロウィンが
独自の形に変質してるひとつの象徴だろう。
「とはいえ、マーケティング的に成長曲線から予測すれば、
すでに100%近い知名度があり、20%の人が動く段階に来ているので、
市場が今後拡大していくのはほぼ間違いないでしょう。
“若者がバカ騒ぎをするイベント”というイメージもありますが、
最近は子ども向けのパレードが増えたり、
ハロウィン行事を催す保育園や幼稚園が登場してきたことで、
ファミリー層への浸透も進んできている。
すでにクリスマスがそうなっているように、参加者のハードルを下げ、
カップルでも楽しめる、家族でも楽しめる、子どもでも楽しめるという風に
多様なライフスタイルにあった参加スタイルを提案できれば、
マス層を取り込んだ国民的イベントとして完全に立ち上がっていくでしょう」
(妹尾氏)
幼少期からハロウィンを経験している
「ハロウィン・ネイティブ」が急増している以上、
一過性のブームで終わる可能性は少ないようだが、
現状のイベント中心のスタイルが続くなら、
ハロウィン市場に今以上の伸び代はないとも考えられる。
イベント中心の楽しみ方から、
老若男女が多彩なライフスタイルで参加できる行事へと
変化できるかどうか。まさに業界の知恵の絞りどころだ。
(取材・文/ライター 呉 琢磨)
【ダイヤモンドオンライン】